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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 兄のソルグクは直前まで、このお屋敷勤めには反対していた。
―いやなら、無理に行かなくても良いんだぞ。お前と親父の二人くらい、ちゃんと養える。お前は家にいれば良いんだ。今更、奉公になんぞ出ず、良い嫁ぎ先があれば、嫁にゆけ。親父のことなら気にせず、お前は幸せになれば良いんだ。
 兄の言葉は嬉しかったけれど、かといって、その言葉どおりにできるものではなかった。
 梨花は兄の辛そうな表情から眼を背け、後ろ髪を引かれる想いでこのお屋敷に来たのだ。
 いよいよ家を出る間際、梨花は父に向かって、拝礼(クンジヨル)を行った。立ち上がって両手を組んで眼の高さに持ち上げ、そのまま座り頭を垂れるのである。目上の相手に対して最上級の敬意を表する意味を持つ。
 兄は傍らで、父に挨拶する梨花を黙って見守っていた。

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