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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第4章 求め合う心

 果たして、十年前の屈辱を晴らすために、また罪を重ねることに意味があるのかどうか。今の梨花には、それも疑問であった。
 尹北斗は小間物屋であるが、貿易商としても手広く商売している。むろん、猛威徳のように密貿易ではなく、ちゃんと公の許可を得ての正規の取引だ。そのため、当主の北斗自
身は一年の半分は外国を忙しく飛び回っていて留守だというが、息子の南(ナム)斗(ドゥ)が父の代わりに屋敷や国内での商売を取り仕切っているとのことだった。
 この一人息子の南斗というのがなかなかの切れ者で、やり手と噂される父親以上の商才があるとすら囁かれている。
 何しろ大きなお屋敷で、幾ら人手があっても足りないといわれるほどの規模だ。名前だけの下級両班などよりよほど両班らしい贅沢な暮らしをしており、梨花も初めて門をくぐったときは、あまりの屋敷の広さ、立派さに眼を疑ったほどであった。

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