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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

「何とでも言うが良いさ。今夜、お前は俺の女になる。翌朝になれば、お前は俺と祝言を挙げて嫁になるしか、生きるすべはなくなるんだ」
 ソヌの言葉に、梨花は蒼褪めた。
 この男は本気だ―!
 卑劣な手段で梨花を呼び出し、手籠めにした挙げ句、結婚せざるを得ない状況を作るつもりなのだ。
 尹家の夫人は、使用人たちに対しては、殊に厳しいことで知られている。家僕と女中の恋愛は認められてはいたけれど、仕事のある昼間、二人だけのところを見つけられでもしようものなら、罰として鞭打たれた。ましてや、婚姻もせぬ前から情を通じたと露見すれば、良くて鞭で叩かれるか、最悪の場合は半殺しの仕置きの上、放り出される。
 狡猾な男は、そのことを知った上で、梨花との間に既成事実を作ろうとしているのだ。
―私は、何て愚かなんだろう。

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