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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

 自棄になったのだろう、ソヌはいつになく饒舌だ。狡猾でいけ好かない男ではあるが、けして愚かな若者ではない。普段なら、けして主人に逆らうようなことはなく、ひたすら従順なのだ。
「綺麗事をおっしゃっちゃア、いけませんよ。若さまだって、口では本気だとか何とか言いながら、本当はこの女をモノにしたくて抱きたくて堪らねえんじゃないんですかい? だから、女の気を惹こうと、そんな甘い嘘を平気で口になさるんだ」
「貴様(イノン)!!」
 用心のためか、南斗は腰に太刀を佩(は )いていた。刀に手をかけた南斗を見て、梨花は烈しく首を振った。
「若さま、どうかおとどまり下さいませ。ソヌを殺してはなりません」
 南斗が梨花を別人のように烈しい眼で見据えた。

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