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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

 梨花は南斗の瞳を見つめる。真摯なその瞳に嘘はつけなかった。
「―私も若さまを心よりお慕いしております」
「それなら! 私に付いてきてはくれぬか?」
 南斗が勢い込んで梨花の顔を覗き込む。
 梨花だって、叶うなら、そうしたい。大好きな男から愛していると直截に告げられて、嬉しくないはずがない。
 出逢って二ヵ月、ついに両想いだと判ったのだ。けれど。
 この恋が実るものではないことも最初から判り切っていたことだ。南斗と梨花では身分も立場も―住む世界が違いすぎる。
 ソヌの指摘はけして間違ってはいない。側室ならまだしも、女中の梨花が都随一と呼び声の高い大商人の跡取り息子の嫁に迎えられる日など、永遠に来ない。

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