遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第5章 凍れる月~生涯の想い人~
都随一の大商人の跡取り息子とくれば、縁談の申込みはひきもきらず、また当の南斗自身が長身の美男とくれば尚更、若い娘を持つ金持ちたちは尹家の子息を聟がねとして狙っている。
南斗の母スンヨンは、これまで息子の身辺―女関係について煩わされたことはなかった。しかし、最近、南斗に意中の娘が現れたと屋敷内では専らの噂になっている。
南斗は母に呼びつけられ、それとなく行動を慎むように言われたものの、母の言うなりになるつもりは全くない。
その朝、梨花はいつものように金盥に水を張り、南斗の寝室に運んだ。
南斗は丁度寝所から出てきたばかりらしく、白の夜着を着たままで廊下に佇んでいた。
「若さま」
梨花が声をかけると、南斗の顔が忽ちにしてほろこんだ。
そう、梨花こそが尹氏の夫人を悩ませている〝大切な息子を誑かす女〟であった。
南斗の母スンヨンは、これまで息子の身辺―女関係について煩わされたことはなかった。しかし、最近、南斗に意中の娘が現れたと屋敷内では専らの噂になっている。
南斗は母に呼びつけられ、それとなく行動を慎むように言われたものの、母の言うなりになるつもりは全くない。
その朝、梨花はいつものように金盥に水を張り、南斗の寝室に運んだ。
南斗は丁度寝所から出てきたばかりらしく、白の夜着を着たままで廊下に佇んでいた。
「若さま」
梨花が声をかけると、南斗の顔が忽ちにしてほろこんだ。
そう、梨花こそが尹氏の夫人を悩ませている〝大切な息子を誑かす女〟であった。