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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

 南斗は梨花の手を自分の左手に乗せ、もう一方の手で愛おしむように撫でた。
 彼はしばらくの間、梨花の荒れ果てた手を撫でていたが、やがて呟いた。
「この手を醜いなどと言うな。私は、この荒れたそなたの手をどのような白いなめらかな手よりも美しく尊いものだと思う。この手は働く者―誠実に己が仕事をこなしている者の手だ」
「―」
 直截に褒められ、梨花の頬が更に紅くなる。同時に、胸に熱いものが込み上げた。
「どうしたのだ、泣いているのか?」
 南斗の面に軽い驚愕の表情が浮かんでいる。
 梨花は眼に涙を滲ませ、幾度も頷いた。
「だって、こんな傷だらけの手を綺麗だなんておっしゃっるのだもの。私、―嬉しくて」
「傷だらけの手だからこそ、美しいのだ」
 南斗は大真面目に言い、じいっと梨花を見つめる。

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