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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第5章 凍れる月~生涯の想い人~

 あまりにあからさまに見つめられ、梨花は小首を傾げた。
「私の顔に何かついているのですか?」
 梨花は戸惑いながら、頬を手のひらでしきりにこすった。確か、今朝はいつもどおり夜明け前に起き出し、顔も洗ったし口もきちんとすすいだはずである。南斗に起床時の洗面用具を運ぶのは梨花の役目になっているため、いつも小さな手鏡を覗くことは絶対に忘れない。
 顔もよく洗ったつもりだが―。
 と、明るい笑い声が梨花の物想いを破った。
「やはり、そなたは面白きおなごだな」
 梨花は茫然として南斗を眺める。
 南斗はさも愉快でならないとでもいいたげに笑っている。
「普通、男が惚れた女を見つめているとなれば、女はもっと別のことを考えないか?」
 揶揄する言葉とは裏腹に、南斗の視線が熱っぽく、これまでにない艶っぽさを帯びている。

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