遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第6章 兄の心
「お前は憶えていないか? 三ヵ月前に、初めてあの男を見たときも、俺は似たようなことを言ったはずだ」
―良いか、俺のこの言葉だけは忘れるな。あの男だけは止せ。俺は、あいつを見たときから、胸騒ぎがしてならねえんだ。あんな、いかにも女にモテそうな両班の坊ちゃんなんぞがお前のような貧乏人の娘を本気で相手にするはずがない。だから、あの男のことを今日を限りに忘れるんだ。
梨花の耳奥で、あの日の兄の言葉がこだまする。
「そうね、ちゃんと憶えてるわ。でも、あの時、お兄ちゃんは、若さまが両班の坊ちゃんだから、私のような貧乏人は相手にしないだろうと言ったはずよ? それは、たった今、お兄ちゃん自身が私に告げた言葉―若さまが本気なら、駆け落ちだって何だって結婚そのものには反対しないという内容とは矛盾するけれど」
―良いか、俺のこの言葉だけは忘れるな。あの男だけは止せ。俺は、あいつを見たときから、胸騒ぎがしてならねえんだ。あんな、いかにも女にモテそうな両班の坊ちゃんなんぞがお前のような貧乏人の娘を本気で相手にするはずがない。だから、あの男のことを今日を限りに忘れるんだ。
梨花の耳奥で、あの日の兄の言葉がこだまする。
「そうね、ちゃんと憶えてるわ。でも、あの時、お兄ちゃんは、若さまが両班の坊ちゃんだから、私のような貧乏人は相手にしないだろうと言ったはずよ? それは、たった今、お兄ちゃん自身が私に告げた言葉―若さまが本気なら、駆け落ちだって何だって結婚そのものには反対しないという内容とは矛盾するけれど」