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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第1章 燐火~宿命の夜~

 ミンスがほくそ笑んだ。
「礼金は既に半分、きっちりと前渡しされてる。後の分は貰えなくても、このガキを売り飛ばしゃア、後で渡される分くらいの金にはなるだろう。俺たちは、それを持って当分は漢陽をずらかるって寸法だ」
「つまり、トンズラちしまえば、それで終わり、向こうは俺たちを追いかけてはこられないと?」
 新顔の男がにやつきながら言い、ミンスは大きく頷いて見せた。
「それなら、早いところ、娘を売って漢陽をずらかろうぜ」
 小男が言うのに、ミンスは声を上げて笑った。
「なに、そう焦ることはない。息子が逃げたとしても、すぐにすぐ役所に訴え出ることはねえだろう。幼い娘の方はともかく、息子は父親の仕事についてある程度は知っているはずだ。

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