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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第1章 燐火~宿命の夜~

父親が何のために誰に殺されたのか、大方の推測はつくに違えねえ。何しろ、今や領(ヨン)議(イ )政(ジヨン)より権力を持つ右相大監に両親を殺されたんだ。今、畏れながらと訴え出ても、かえって自分の生命まで危うくなる―それほどのことは甘やかされて育った両班の坊ちゃんでも判るだろうよ」
「お前の頭の良さにはつくづく感心するぜ、ミンス」
 新顔の男も笑いながら頷いている。
 梨花は男たちの話を一言一句聞き逃すまいと息を詰めて聞き入っていた。
―兄上さまが生きておいでになった!
 その事実は、梨花の心に希望を与えてくれた。もっとも、現段階では兄が無傷でいるのかどうかまでは判らないけれど、とにかく何とか悪党どもの魔手から逃れることはできたらしい。
 今は兄が生命に拘わるような怪我を負うていないことを祈るしかない。そして。

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