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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

 ソルグクの記憶が巻き戻されてゆく。
 十一年前、梨花を初めて見つけた日の光景がありありと甦った。
 石橋の上で死んだように倒れていた梨花。梨花の身につけていた血まみれの夜着。そのたもとに海棠の樹が薄紅色の花を盛りとつけていた―。
 血に汚れてはいたけれど、極上の絹で仕立てられていた夜着、はっきりと両班の令嬢だと判る気品ある挙措。すべてがこの男―ジュソンの言い分と合致する。
 そういえば、と、ソルグクは今更ながらに合点がいった。丁度、梨花を助けた頃、時の兵曹判書一家が夜陰に紛れて屋敷に忍び込んだ賊に皆殺しにされたという事件が起こった。
 三日三晩、眠り続けた梨花が目ざめた時、確かに言った。両親や乳母、奉公人が殺され、自分はその下手人たちを自らの手で毒殺した、と。

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