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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

 よくよく考えてみれば、梨花の語った話とその痛ましい事件は、どこかで結びついたはずだ。幼い梨花が身に纏っていた血まみれの夜着は、彼女が惨劇の生き証人であることを何より示してはいなかったか?
 発見したときの尋常でない様子からも、梨花が想像を絶する苛酷な体験をしたと判っていたはずなのに、どうして、あの時、自分はもっと深く突きつめてみようとしなかったのだろう。
 あのときの自分に、梨花の身許が判らなければ、ずっとこの愛らしい少女と一緒にいられる―という想いが全くなかったと言い切れるだろうか。
 だから、巷に流れた不幸な事件についての噂からも敢えて眼を背け、耳を塞いだ。そのため、ソルグクは実際、兵曹判書殺害事件にの詳細は与り知らないし、兵曹判書に娘がいたことも、その娘がゆく方不明のままに終わっていることも知らなかった。

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