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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

「あの子が生きてゆくためには、新しい名前が必要でした。梨花という名前は、あの子が生きてきた六年の歳月すべてを意味する。だから、傷ついて震えている小さな子には重すぎると思いました。俺は妹に言いました。これまであったことはすべて忘れて、新しい名前で生き直せと」
「何故、海棠という名を?」
「あの子を最初に見つけたのは俺ですが、倒れていた近くに海棠の花が綺麗に咲いていたんです。名前の話をしている時、その花が浮かんできて、咄嗟に口にしていました」
 ジュソンは皺に埋もれた細い眼をしばたたかせた。
「良い名ですな。梨花さまというお名前もお美しいが、海棠という名もまたお嬢さまにふさわしい名前です。愛らしいお嬢さまだった。お父上と同様、私を見ると、物怖じもせずに寄ってきて話しかけてこられたものでしたよ」

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