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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第1章 燐火~宿命の夜~

「ああ、だから泣くんじゃねえ」
 この声は新顔の男だ。梨花は声で悟り、更に憐れっぽく訴えた。
「だって、これからどうなるかと思うと、怖くて怖くて身体が震えてくるの」
「こっちに来て、火にでも当たりな」
 男は見かけほど性悪ではないのか、それとも、梨花の泣き顔に自分の娘を思い出したのか、梨花の手を引っ張って火の側に連れてきた。
 どうせ子ども一人、縛らずとも逃げられぬと油断しているのか、梨花は手脚を拘束されているわけでもなかった。
 男がヤニ下がった表情で梨花の前に酒瓶を差し出した。
「酒を注げ」
 梨花は言われたとおり、素直に酒瓶を受け取る。
 新顔の男が傍らのミンスに言った。
「それにしても、綺麗な子だな。売り飛ばすには勿体ねえようだ」

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