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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第7章 哀しい現実

 あの無邪気な妹が小さな手で人を殺し、白い手を血に染めたのだ。そこまでしなければ、哀れな妹は生きてゆけなかった。
 だから生きるために、人の生命を奪ったのだ。死んでいる虫を見て、可哀想だと泣いていた妹。仕方のないこととはいえ、優しい妹にとっては耐えがたい体験だったに違いない。刺客を恨むより、彼らを殺してしまった自分を責め続けただろう。
 死んだと思い込んでいた妹は、生きていた。自分たちはおよそ考え得る最悪の形で、再会を果たしたのだ。
 南斗は膝をつき、拳で狂ったように地面を打ちつけた。
「わ、若さま!?」
 女中の悲鳴にも似た声が聞こえたような気がしたけれど、南斗は頓着せず、泣きながら地面を叩き続ける。
 誰に見られたって、構うものか。想い人を失うくらいなら、いっそこのまま気が狂って正気を手放してしまった方が幸せというものではないか。

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