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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

 南斗の死が尹家の使用人たちに知らされたのは、その日の夜である。
 夫人は息子の変わり果てた姿を見た刹那、昏倒して床に伏した。富豪の妻として気随気儘に生きてきた夫人ではあったが、彼女なりに南斗を息子として愛していたのだ。夫人は大行首との間の子を三度身籠もったが、三度とも流産している。彼女にとって、南斗は実の息子も同然であった。
 南斗の亡骸は、生前暮らしていた居室に運ばれた。数時間後に目ざめた夫人は、食事も忘れ果て息子の側に座り込んだ。
 尹氏の屋敷は深い憂愁に閉ざされた。使用人たちは急な葬儀の支度に追われることになる。
 梨花もまた、朋輩たちに立ち混じって、忙しく動き回っていた。息をつくまもないほど忙しいのは、この際、好都合だった。
 梨花の心は、突如として最愛の男を失ったその哀しみでひび割れ、血の涙を流していた。

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