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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第8章 終焉

 見慣れたはずの小さな家が無性に懐かしい。尹家にいたのは実質七ヵ月ほどなのに、もう十年くらい家を離れていたような気がしてならない。
 自分でも知らず急ぎ足になった。家のすぐ手前まで来ると、走った。
 荒い息を吐きながら表の扉を勢いよく開けると、家の中はしんと静まっている。
 最初はよく見えなかったけれど、眼が慣れてくる中に、漸く薄い夜具に寝ている父の姿が見えた。かすかに寝息が聞こえている。
 思わずホッとして、靴を脱いで家の中に上がり込む。
 懐かしさに涙ぐみそうになりながら家の中を見回していた最中、梨花はあることに気づいた。
 兄の荷物がなくなっている!
 元々、家財と呼べるものなど無いに等しい貧乏暮らしだ。でも、家族皆の衣服を仕舞う箪笥や食器棚くらいはある。

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