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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第2章 転生

 梨花には、兄の亡骸がいまだに見つかっていないという事実が一縷の救いでもあり望みでもあった。梨花自身、骸が見つからぬということは、こうして名を変え市井の片隅で生きているということでもある。
 だとすれば、ソンジュンもまた、この都のどこかで―いや、たとえ都にはもういないのだとしても、この世のどこかで生きている、無事ではないのかと思えてならない。
 たとえ今は逢えずとも、生きてさえいたら、希望はある。いつか再会し、二人で協力して父母の無念を晴らしもできよう。
 養父母のソギョン、ヨンオクは、すべてを忘れろと言うけれど、梨花には、どうしてもできなかった。人を殺めてしまった罪を生涯背負ってゆくのだとしたら、また、父母や乳母を殺された憎しみをも、どうして忘れるこ
とができるだろう?
 いや、復讐は必ずしも望んではいない。ただ、兄が生きてさえいれくれれば。梨花は兄の無事を一途に信じ、祈っていた。

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