遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~
第3章 運命の邂逅
梨花は相手が身分の高そうなことも忘れ、夢中で礼を言った。
掏摸をねじ伏せていた男が振り返った。
「おお、丁度良かった。そなたもこの男を追いかけてきたのだな。この男に財布を掏られた者か?」
いかにも高価そうなパジチョゴリを纏っているにも拘わらず、男は随分と気さくというか打ち解けた態度であった。
梨花は息を呑んで男を見つめていた。浅葱色の絹の上下はいかにも仕立てが良さそうで、この男が梨花とは住む世界が違うことは一目瞭然だ。だが、梨花が眼を奪われたのは身なりの立派さではなかった。
男が労働者ではないことも、その色の白さから見れば察せられることだ。恐らく、両班の―しかも上流貴族の息子なのだろう。だが、陽にあまり灼けていなくても、この男の場合、掏摸と違って、不健康には見えなかった。色の白さは端整な容貌を更に際立たせていて、かと言って軟弱なお坊ちゃん然としているわけでもなく、逞しさと優美さが程よく調和しているといった案配であった。
掏摸をねじ伏せていた男が振り返った。
「おお、丁度良かった。そなたもこの男を追いかけてきたのだな。この男に財布を掏られた者か?」
いかにも高価そうなパジチョゴリを纏っているにも拘わらず、男は随分と気さくというか打ち解けた態度であった。
梨花は息を呑んで男を見つめていた。浅葱色の絹の上下はいかにも仕立てが良さそうで、この男が梨花とは住む世界が違うことは一目瞭然だ。だが、梨花が眼を奪われたのは身なりの立派さではなかった。
男が労働者ではないことも、その色の白さから見れば察せられることだ。恐らく、両班の―しかも上流貴族の息子なのだろう。だが、陽にあまり灼けていなくても、この男の場合、掏摸と違って、不健康には見えなかった。色の白さは端整な容貌を更に際立たせていて、かと言って軟弱なお坊ちゃん然としているわけでもなく、逞しさと優美さが程よく調和しているといった案配であった。