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遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第3章 運命の邂逅

「行くぞ、海棠。とにかく早く帰って親父を見てやってくれ。これから先のことは家で話そう」
 暗に、男の存在が邪魔だと言わんばかりの言い様に、梨花はひやひやした。幾ら温厚そうな男でも、流石に気を悪くするのではないかと思ったのだ。
 しかし、男は鷹揚に頷いた。
「兄上のおっしゃるとおりだ。早く帰って上げて下さい」
 梨花は頷き、男を見つめた。
「それでは、私はこれで失礼します」
 男もまた梨花に軽く会釈する。ソルグクは男の方は見もせずに梨花の手を引き、家に向かって歩き出した。
 家に戻ってみると、兄の言葉に嘘はなかった。ソギョンは粗末な夜具に大の字になって、大鼾をかいていた。
 梨花はソルグクと顔を見合わせた。
「確かに尋常ではないわね。隣のおばさんの言うとおり、卒中かもしれないわ」

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