テキストサイズ

遠い約束~海棠花【ヘダンファ】~

第3章 運命の邂逅

 梨花にその気がないのに、無理強いする気は全くなかった。陳腐な科白のようだけれど、ソルグクの欲しいのは梨花の心であって、身体ではなかった。身体だけなら無理に奪うこともできるが、心が手に入らなければ、かえって空しいだけだ。
 梨花本人にも訊ねたことはないが、恐らく梨花は両班の娘に違いない。血には汚れていたが、極上の絹の夜着、あれは両班でも上級両班の息女が身につけるものだ。今では下町で育った庶民の娘らしくなった梨花も、ここに来たばかりの頃は立ち居振る舞いも優雅で、流石に貴族の娘は違うと思わせるだけの上品さがあった。それは付け焼き刃ではけして身につかない、自然と身に備わったものだ。
 ソルグクには、梨花の出自など、どうでも良かった。梨花がたとえ漢江に棲む龍神の娘であろうが、きっと彼女に想いを寄せただろう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ