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　ならばこそ、余計にあの男に梨花が惹かれてゆくのを黙って見ているわけにはゆかなかった。傷をなめ合うだけの関係ならば、互いに不幸になるのは眼に見えている。
　それでなくとも不幸な星を背負った妹が、あの男の持つ悲劇的な運命に巻き込まれることがあってはならないのだ。
　それに、と、ソルグクは必死に己れに言い聞かせる。
　あの男が身につけていたパジチョゴリは極上の絹で仕立てられていた。ソルグクが感じたように、両班の息子に違いない。あんな上流貴族の坊ちゃんが妹のようなただの庶民の娘を相手にするはずがない。
　所詮、興味のあるしばらくの間、慰みものにされて、挙げ句、棄てられるのが関の山だ。良くて、側妾にされるくらいのものだろう。
　大切な妹をけして妾になんかさせない。妹が良人として望ましい男とめぐり逢い、晴れて婚礼を挙げるまで守るのが兄である自分の使命、責任だとソルグクは固く誓っていた。