雨の中の君へ。
第4章 星。
「こっちには帰って来ないの?」
「うーん、仕事が忙しいから。もー何で会社にかけてくんのよ」
私が夜中の編集部でゲラのチェックに励んでいた時、母親から電話を受けた。
「だってあなたいつ掛けても出ないじゃないの。いつかタケルくんに掛けてもらったのにそれも無視だし!」
胸がどきりと鳴った。ペンをくるくる回す。私がイライラする時の仕草だ。
…母親の差し金だったのか…。
「しょうがないのよ。忙しいの」
「お盆は帰って来るんでしょうね⁈トモヤ君も連れて帰って来なさいよ」
…トモヤ。会ってないな、というか会えないんだけど。
「あ、あとねぇ!」
忙しいと言う私に田舎の母は横浜の姉のところへ用事を頼んだ。…つまり私の伯母であり、タケルの家への用事だ。
伯母の家にある茶器が欲しいのだと言う。そんなもの、宅配で送ってもらえば良いのにと思ったが、宅配は心配だとのこと。つまり、お盆に私に持って帰って欲しいのだ。
「無理よ無理!じゃあね!切るよ!」
母親の返事は待たないで切った。