雨の中の君へ。
第6章 束縛。
諦めてトモヤと帰ろうと椅子を引いた時、隣にいた先生が私の腕を掴んだ。
先生⁈
「言えば良い。」
驚いて先生を見た。トモヤも動揺している。
「⁈分かってるのか?あんたも、あんたの家族も地位も名誉も無くなるんだぞ⁈」
トモヤが席を立った。
「座りなさい。みっともない。…サキ、お前の好きな男はこんなことで動揺する男なのか?
…ならサキ、私と結婚しなさい。既に離婚してあるから。」
暖かな手が私の手を取る。暖かな眼差しが私を安心させる。確かな、愛を感じる。
「言うなら言って構わない。私は作家だ。芸の肥やしの一つにでもなるだろう。金谷、また新作が書けるぞ。」
大人の男だった。私が愛したそのままの人だった。
「馬鹿馬鹿しい!狂ってるよ
!後悔しても知らないからな!」
トモヤが苦々しい顔をして言い放ち、その場を去った。