天使で悪魔なセラピスト
第2章 セラピスト
その時、表情一つ変えず、その白衣の男がつかつかとユナに歩み寄って来て、ユナは我に帰った。
さっきの中年男よりもずっと背の高い男が自分に近寄ってきたので、ユナの中の恐怖が一気に目を覚ます。
「っっ来ないで…やああ!」
「落ち着いて。…じっとして。」
傍に跪き、大きな掌がユナの肩を掴んだ。
彼はもう片方の手を白衣のポケットに入れ素早く何かを取り出し、ユナの顔に当てた。
「きゃ!?」
「…鼻血。」
鼻の下に押し当てられたのは白い清潔なハンカチだった。
指摘されて初めてユナは自分が鼻血を出している事に気づいた。
喉の奥に拡がる不快な鉄の味に、ユナはウッと呻いた。
だが鼻に当てられたハンカチから、白衣の男と同じあの甘く清しい香気がして、不快な匂いを中和してくれているようだった。