天使で悪魔なセラピスト
第1章 トラウマ
「ひゃ!」
「ひゃ、って。…俺、手つなごうとしただけなんだけど。」
ムッと睨んでくる男を見上げるユナの瞳は、まるで狼に追い詰められた羊のように怯え切っていた。
「ご、ごめんなさい」
泣き出しそうに表情を歪め、ユナは小さく謝ったけれど。
「…ジョーダンじゃねぇよ。付き合いだして3週間も経ったのに、キスどころか手すら握らしてもらえねぇなんて。」
男は苛立つように溜息を落としクルリと背を向けた。
「中学生じゃないんだからさ。」
「すみませ、…石田先輩?」
ユナが男の背中におそるおそる呼びかけたけれど、彼はもう、ユナの方へは向きなおろうとはしなかった。
「悪いけどさ。やっぱお前とは付き合えねぇわ。じゃあな。…」
「いっ、石田先輩!」
慌ててユナがまた呼んだけど、彼はそのままスタスタと去って行ってしまった。