あなたが消えない
第10章 愛を植え付ける
今夜、翔は出掛ける。
私はそのタイミングで家を脱け出して、早く戻って来てと伝えよう。
小声でそっと伝えよう。
誰かに知られてはまずいから。
早く戻って来て…。
本当はそんなふうに伝えたい訳じゃない。
行カナイデ…。
そう、伝えたい。
でも、そんな言葉を私が言える訳ないのが、つらい。
胸の中が切なすぎて、ギュッと縮まった。
ーーーーーーーー夕方。
101号室の玄関が閉まる音がした。
和男はニュースを熱心に見ていた。
「ちょっと郵便受け見てくる」
返事はない。
私は慌てて、部屋を出て階段をかけ降りた。
翔は車に乗り込もうとしていた。
「あ、あの、永津さん!」
私は声を掛けた。
「こんばんわ…」
そう素っ気なく言われて、私はそれでも聞いた。
「こんな時間から、お出掛けですか?」
「えぇ、そうですが何か?」
目も合わさずに言われて、私はそれでも近寄って聞く。
「ど、どこへ…出掛けられるんですか?」
やだ、震えてきた。
分かってるから、余計に。
「実家に居る妻に会いに行くんです。妻のご両親に食事に誘われましてねぇ」
「そ、そうですか」
…やっぱり、奥さんなんだ。
こんなにストレートに冷たく言われて、私はみっともなくて、顔が熱くなった。
「急いでますんで、そこどいてもらえます?」
へっ……。
翔の急に冷たくなった態度と言葉に、一気に血の気が引いて立ち尽くしてしまった。
言葉がもう見つからない。
翔は躊躇わずに車に乗り込み、さっさと行ってしまった。
私はそのタイミングで家を脱け出して、早く戻って来てと伝えよう。
小声でそっと伝えよう。
誰かに知られてはまずいから。
早く戻って来て…。
本当はそんなふうに伝えたい訳じゃない。
行カナイデ…。
そう、伝えたい。
でも、そんな言葉を私が言える訳ないのが、つらい。
胸の中が切なすぎて、ギュッと縮まった。
ーーーーーーーー夕方。
101号室の玄関が閉まる音がした。
和男はニュースを熱心に見ていた。
「ちょっと郵便受け見てくる」
返事はない。
私は慌てて、部屋を出て階段をかけ降りた。
翔は車に乗り込もうとしていた。
「あ、あの、永津さん!」
私は声を掛けた。
「こんばんわ…」
そう素っ気なく言われて、私はそれでも聞いた。
「こんな時間から、お出掛けですか?」
「えぇ、そうですが何か?」
目も合わさずに言われて、私はそれでも近寄って聞く。
「ど、どこへ…出掛けられるんですか?」
やだ、震えてきた。
分かってるから、余計に。
「実家に居る妻に会いに行くんです。妻のご両親に食事に誘われましてねぇ」
「そ、そうですか」
…やっぱり、奥さんなんだ。
こんなにストレートに冷たく言われて、私はみっともなくて、顔が熱くなった。
「急いでますんで、そこどいてもらえます?」
へっ……。
翔の急に冷たくなった態度と言葉に、一気に血の気が引いて立ち尽くしてしまった。
言葉がもう見つからない。
翔は躊躇わずに車に乗り込み、さっさと行ってしまった。