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あなたが消えない

第10章 愛を植え付ける

ひどい……。

すると、彼が出て行ったのを見計らって、102号室のご夫婦が出てきた。

「こんばんわ」

「こんばんわ」

涙目の私は、必死で悟られないように明るく挨拶をした。

「永津さん、どうやらご実家にいる奥さんに会いに出掛けたようですよ」

私は気まずくて、話し掛けた。

「みたいですね。お子さん連れて戻って来たら、また一騒動ありそうですよね」

と、旦那さんが明るく話すから奥さんがつつく。

「そんなふうに言ったらダメよ。でも、神経質な旦那さんだから、お互い静かにしていましょうね」

「そうですよね。今もちょっとキツイ言葉を掛けられちゃって、少しだけ放心状態」

私は傷付いて泣きそうだから、うまくカモフラージュ。

「えぇっ、大丈夫ですか?」

「あの方に、あまり声を気安く掛けたりしない事を、ご忠告しておきますよ」

優しいご夫婦に私は慰められた。

「そうですよね、私が悪いんですもん。気を付けます」

奥さんに背中を擦ってもらい、少し気持ちが落ち着いた。

「大丈夫ですよ、僕たち夫婦も同じ目に合ってますから。僕たちは仲良くやっていきましょうね」

「はい…ありがとうございます」

私は、その言葉に涙を溢してしまった。

涙の理由は、本当のとこ全然違う。

毎日、秘密の時間を作ってセックスをしている仲なのに、あんなに露骨に冷たく捨てるような言葉を掛けられた事に、私の心が瀕死の状態になっているのだ。

翔はやっぱり、私を抱くだけで愛してはくれていないのだと確信した。

今だけの性の捌け口?

簡単に受け入れてしまった私が悪いのだと、翔は思っているの?

私は何だか、あまりのショックに夕飯は食べずに残した。

何をする訳でもなく、気分が悪いと布団に横になっていた。

今頃、私の事なんて忘れて楽しい時間を送っているんでしょうね。

翔…。

あなたは、私のモノにはなってくれないの?

私の心も身体も、あなたに完全に支配されているのに。

やっぱり、奥さんじゃなきゃダメなの?

私じゃ、ダメなの?

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