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あなたが消えない

第11章 絶頂感にひれ伏す

夕方過ぎに、翔は仕事から戻って来た。

物音がして、シャワーの音が聞こえる。

私も同じようにシャワーを浴びる。

聞こえているだろうか。

私もこうして、あなたのためにシャワーを浴びている音を。

私はドキドキしながら、身体を念入りに洗った。

翔の玄関が閉まる音と同時に、私も部屋を出る。

階段を降りて行くと、翔は車に乗り込む。

近くのコンビニで待ち合わせのはずが、翔は私に声を掛けてきた。

「あれ、奥さん。こんな時間から何処かへ出掛けられるんです?」

「えっ?…えぇ、はい」

翔はニヤニヤしながら、大きな声で言った。

「僕、駅の方へ行くんですけど、よかったら乗せてきますけど?」

「えぇ、あの、はい…。いいんですか?」

わざと周囲に聞こえる声で翔は言っている。

「はい。ついでです。つ、い、で…」

「あ、ありがとうございます」

私は、遠慮がちに車に乗り込んだ。

扉を締めると、俯きながら肩を揺らして一人で翔は笑っていた。

「あぁ、面白い」

そして、すぐさまエンジンを掛けて、さっさとアパートから離れて走って行った。

「奥さん、この車は生憎、駅には行かないでラブホへ直行しますけど、いいですか?」

「翔、もう演技はいいって。普通に言ってよ。いやらしい」

私も笑って言う。

「…ノリ悪いねぇ」

「わざとらしい。悪人だね、翔は」

「いや、翼も旦那に嘘付いて騙してるんだから、悪人だよ。…いや、俺もそうだから、この際同罪」

「最低」

でも、あんなに堂々とアパートの駐車場で私を車に乗せてくれるだなんて思わなくて。

サプライズで、ドキドキしちゃった。

本当は凄く嬉しかった。

夕食を一緒に食べに行く。

ハンバーグを子どもみたいに、パクパク食べる姿に、いつものクールな翔とは違った一面を見て、

「なんか可愛いね、翔」

思わず笑ってしまった。

「えっ?何が?」

「何でもない。美味しい?」

「いや、翼のがもっと美味しいよ」

…そういう話じゃなくてね。




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