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あなたが消えない

第15章 初出勤日の夜

翌朝また翔と朝帰りをした。

車の中でも、ずっと恋人握りをして、翔は言う。

「明日は初出勤だろ?アルバイト、頑張れよ。だからって意気込み過ぎるのも疲れるからな、自分らしくやれよ」

翔があまりにも、まともな言葉を言って、私を励ますから驚いた。

「なぁに?何だよ?」

「普通の言葉も言えるんだね、翔も」

「うぅ~わ、ひでぇな」

私は翔の指先にキスをして笑う。

翔もそのキスを落とした指先に、またキスをした。

「急な朝帰りだから、旦那は疑ってるだろうな。俺としてはイイキミだ」

「怒られるのは私なんだから」

そうこうしていると、自転車をこいで駅まで突っ走る和男の姿が、私たちの車と奇妙なまでに、擦れ違った。

「噂をすればだな」

「本当だ」

私はヤバいと思って、下を向いた。

「隠れたって、お宅の旦那は仕事で頭がいっぱい。要するに自分の事でいっぱいで、言っちゃ悪いけど、翼の朝帰りだっていちいち気にしちゃいないさ」

「それは言い過ぎでしょ」

「自転車こいだマヌケ面。…どこがいいんだか」

翔は、ふてくされて遠い目をした。

もしかして、嫉妬?

「嫉妬した、ごめん」

あ、やっぱり嫉妬か。

その後、朝から二人で資源ゴミを捨てに行く。

あたかも夫婦のように装って。

だから、誰も疑わない。

「翔、まだ車に荷物積んでるみたいだけど、卸さないの?」

「あぁ…、あれはまた今度にしようかな」

「変なの」

「俺は変なんだよ」

笑い合いながらも、軽自動車の後部に積んだ段ボール箱に私は、頭を傾げていた。

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