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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

―一体、何が起こったのだろう。
 茫然としている凛子の耳に切迫した声が聞こえた。
「申し上げますッ、殿、只今、泰衡殿の差し向けた兵がこの館を取り囲んでおります。また藤原忠衡殿も泰衡殿の急な襲撃にて討たれ既にご生害を遂げられた由」
 義経の郎党の一人が悲愴な面持ちで言上している。藤原泰衡は我が弟忠衡までを手にかけたのだ。ついに鎌倉の頼朝の申し出を受け、義経を差し出すつもりになったに相違ない。それを事前に忠衡に知られ、反対されたのだろう。
 多分、昼間、凛子に逢いにきたその足で忠衡は伽羅御所に立ち寄り兄を訪ね、亡き秀衡の遺命を守り義経をけして鎌倉方に差し出してはならぬと直談判に及んだのだろう。だから、実の弟とはいえ、邪魔者になった忠衡を殺した。

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