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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

 凛子の瞼に、一瞬、雨に濡れた忠衡の姿が蘇った。
「そうか、ついに来たか」
 義経は心得ていたかのように軽く頷くと、凛子に優しく言い聞かせるように言った。
「凛子、今ならば、まだ間に合う。そなたは疾く館の外へ逃れ出るが良い。泰衡殿も何も女のそなたの生命までは取るまい」
「いいえ!」
 凛子は激しく首を振った。
「殿、私はどこまでも殿のお傍に居させて頂きとうございます」
「しかし―」
 口ごもる義経を見上げ、凛子は懸命に訴えた。
「お願いでございます。どうか最後までお側に!」
「そなたは、それで良いのか」
「はい」
 義経の視線と凛子の視線が宙で絡み合う。

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