紅蓮の月~ゆめや~
第8章 第三話 【流星】 プロローグ
五歳で引っ越してから一度も来なかったにも拘わらず、美都の中でこの町は特別なものとなっていた。ある時、ふいに記憶の海の中からこの町で過ごした想い出のワンシーンがぽっかりと浮かび上がってくる。幼い頃のほんの一時期を過ごしただけの町を、美都は不思議とよく思い出した。この町は美都にとってノスタルジックな感情をかき立てるものに他ならない。
二十年前のあの女(ひと)と何も変わらない―否、全く同じように見える美しい女主人が微笑んだ。
「思い出して下さって、光栄ですわ」
女主人は子どものようにあどけない仕草で小首を傾げると、美都の顔を意味ありげに見つめた。
「何か、今のあなたにお役に立てる品がありますか?」
「いいえ―、私は」
二十年前のあの女(ひと)と何も変わらない―否、全く同じように見える美しい女主人が微笑んだ。
「思い出して下さって、光栄ですわ」
女主人は子どものようにあどけない仕草で小首を傾げると、美都の顔を意味ありげに見つめた。
「何か、今のあなたにお役に立てる品がありますか?」
「いいえ―、私は」