紅蓮の月~ゆめや~
第8章 第三話 【流星】 プロローグ
あれから二十年余りの月日が流れている。五歳の美都が二十六歳になったように、「ゆめや」の女主人も既に五十は過ぎているはずだ。理性的に考えれば、眼の前の女性がかつての「ゆめや」の女主人であるはずがない。
美都は気を取り直して、眼の前の女性に小さく頭を下げた。
「私、子どもの頃、この町に住んでいたことがあるんですが、町が随分と変わってしまったので、愕いていたんです。でも、まだ開いているお店があって、良かった。このお店を見つけて嬉しくて、考えもなしに飛び込んでしまったんですけど」
美都の一家がこの町を離れたのは、美都が小学校に進む直前のことだ。以来、美都はこの町を訪れることもなく、日は過ぎた。都会の大学を卒業後、二年間銀行に勤務して、二十四歳で高校時代の後輩だった英輔(えいすけ)と恋愛結婚した。現在は銀行も退職し、都会の中心部にあるマンションに夫と二歳になる息子琢己(たくみ)と三人で暮らしている。
美都は気を取り直して、眼の前の女性に小さく頭を下げた。
「私、子どもの頃、この町に住んでいたことがあるんですが、町が随分と変わってしまったので、愕いていたんです。でも、まだ開いているお店があって、良かった。このお店を見つけて嬉しくて、考えもなしに飛び込んでしまったんですけど」
美都の一家がこの町を離れたのは、美都が小学校に進む直前のことだ。以来、美都はこの町を訪れることもなく、日は過ぎた。都会の大学を卒業後、二年間銀行に勤務して、二十四歳で高校時代の後輩だった英輔(えいすけ)と恋愛結婚した。現在は銀行も退職し、都会の中心部にあるマンションに夫と二歳になる息子琢己(たくみ)と三人で暮らしている。