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紅蓮の月~ゆめや~

第8章 第三話 【流星】 プロローグ

 英輔を嫌いになったわけではない。良人としてまだ愛しているかと問われれば、YESと応えるだろう。だが、以前のようにすんなりと受け容れることはできないのが現実であった。美都は英輔の許から逃れるようにマンションを出たのだ。美都は英輔の止めるのを振り切って出てきた。そのときの英輔の哀しげな表情が心に残っていた。
 美都は「ゆめや」で突然口にした和歌を知っている。高校の古文の授業で習い憶えたことがあるのだ。
―嘆きつつひとりぬる夜のあくるまはいかに久しきものとかは知る
高校二年の時、小倉百人一首の中の一つとして習ったその歌を、美都は微かに記憶していた。だが、作者が誰であるかまでは憶えていない。丁度、あの頃、美都は英輔から告白され、付き合い始めたばかりだった。
―あの頃、こんな日が来るとは思ってもいなかったのに。

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