
紅蓮の月~ゆめや~
第9章 第三話 【流星】 一
この女房は兼家の従者康光の妻である。今宵は美耶子の許へ来るので、兼家も康光を連れてきたのだろう。兼家が美耶子と夜を過ごす間、康光もまた妻とのひとときを持つことが許される。女房の表情が嬉しげに見えるのも至極当然のことであった。
美耶子は、この女房が心底羨ましかった。我が身もまた、この女のように良人の来訪を素直に歓び、その気持ちを隠すことなく伝えることができたなら、どんなに良いだろう。でも、美耶子にはできないのだ。どんなに素直になりたくても、勝ち気な性分が邪魔をしてしまう。
兼家の訪れを待ち侘び、毎日、今夜こそ来るかと夜が近づくにつれて鏡を覗き込み、化粧を直したりする。今夜もお気に入りの紅梅襲の袿を着ていた。この袿は、かつて兼家がとてもよく似合うと誉めてくれたものだ。もっとも、兼家本人はそんなことを言ったのも、もう忘れてしまっているだろう。
美耶子は、この女房が心底羨ましかった。我が身もまた、この女のように良人の来訪を素直に歓び、その気持ちを隠すことなく伝えることができたなら、どんなに良いだろう。でも、美耶子にはできないのだ。どんなに素直になりたくても、勝ち気な性分が邪魔をしてしまう。
兼家の訪れを待ち侘び、毎日、今夜こそ来るかと夜が近づくにつれて鏡を覗き込み、化粧を直したりする。今夜もお気に入りの紅梅襲の袿を着ていた。この袿は、かつて兼家がとてもよく似合うと誉めてくれたものだ。もっとも、兼家本人はそんなことを言ったのも、もう忘れてしまっているだろう。
