
紅蓮の月~ゆめや~
第9章 第三話 【流星】 一
女の化粧や衣装について誉める時、言葉を惜しむ男ではないけれど、果たして、どこまで真剣に言っているのかは疑問だ。
こんな空しい、ささやかな努力をしている自分が時々無性に哀れになる。ならば、そんな徒労に終わる努力なぞせねば良いのに、毎夜、何度も鏡を覗き込み紅を引く。そんな我が身の浅はかさにまた嫌悪感を感じ、ますます憂鬱になるのだ。
そんなことを考えていると、ほどなく兼家が別の女房の案内で現れた。
「庭の菖蒲(あやめ)が見事に咲いておるな。どうだ、変わりはないか」
兼家はせかせかとした足取りでやって来ると、女房たちが急いでしつらえた上座にどっかりと腰を下ろした。兼家の第一印象は育ちの良さを感じさせる、いかにも温厚な御曹司だ。何事にも動じない態度は高貴な公達らしく、泰然としている。
こんな空しい、ささやかな努力をしている自分が時々無性に哀れになる。ならば、そんな徒労に終わる努力なぞせねば良いのに、毎夜、何度も鏡を覗き込み紅を引く。そんな我が身の浅はかさにまた嫌悪感を感じ、ますます憂鬱になるのだ。
そんなことを考えていると、ほどなく兼家が別の女房の案内で現れた。
「庭の菖蒲(あやめ)が見事に咲いておるな。どうだ、変わりはないか」
兼家はせかせかとした足取りでやって来ると、女房たちが急いでしつらえた上座にどっかりと腰を下ろした。兼家の第一印象は育ちの良さを感じさせる、いかにも温厚な御曹司だ。何事にも動じない態度は高貴な公達らしく、泰然としている。
