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紅蓮の月~ゆめや~

第9章 第三話 【流星】 一

 美耶子はあまりな言葉にカッと我を忘れた。
「何と情けないことを仰せられたものでござさいます。私は殿とは違いまする。殿の方こそ、今日はあの花明日はあの花と随分とご身辺が華やいでいらっしゃるように聞き及んでおりますよ。下司の勘繰りはお止め下さいませ」
「そちは私を下司と申すか」
 兼家が怒鳴った。穏やかな兼家が大きな声を出すことなぞ滅多にない。相当怒っているに違いなかったが、美耶子は頓着しなかった。
「殿がきれいに別れて下されば、私は尼にでもなって、ひっそりと生きまする」
 ひと息に断じると、これ以上兼家の顔を見たくもないという意思表示のようにあらぬ方を向いた。

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