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紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

「実は今朝、良人が文を寄越しまして」
 女房は意味ありげな口調で美耶子の耳元近く囁いた。
「我が良人は昨夜はいつもどおりにこちらのお屋敷で過ごしましたもので、お殿様が良人より先にお帰りになったのを迂闊にも私は存じ上げなかったのでございます」
「では、康光殿は昨夜はこちらで?」
 美耶子は愕きを隠せなかった。美耶子と口喧嘩した兼家は確かに夜を過ごさず、帰っていった。その従者である康光も兼家と共に帰ったものだとばかり思い込んでいたが、どうやら兼家は一人で先に帰ったらしい。
 美耶子の思惑なぞ知らぬげに女房は嬉しげに頷く。その表情に昨夜の満ち足りた夫婦の営みをかいま見たように気がして、美耶子は思わず頬を赤らめた。

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