紅蓮の月~ゆめや~
第10章 第三話 【流星】 二
「はい、ですので、まさかお殿様だけがお帰りになっていたとは思わなかったのでございます。今朝方、良人が文を届けてきた折、初めてそのことを知りました。昨夜、お殿様がお帰りになる時、我が良人もお供してご一緒に帰ると申し上げたそうにございますが、お殿様が康光はゆるりと致せ、自分は一人で先に帰るとお心遣い下されたとか申しております」
いかにも気配りの人、兼家らしい配慮だ。美耶子は兼家のそんなさりげない優しさを好ましく思っていた。昨夜を逃せば、康光が今度この屋敷に来られるのはいつになるか判らない。だからこそ、兼家は自分だけ一人先に帰り、康光だけを残した。そのお陰で康光と女房はゆっくりと夫婦水入らずの夜を過ごすことができたのだ。
いかにも気配りの人、兼家らしい配慮だ。美耶子は兼家のそんなさりげない優しさを好ましく思っていた。昨夜を逃せば、康光が今度この屋敷に来られるのはいつになるか判らない。だからこそ、兼家は自分だけ一人先に帰り、康光だけを残した。そのお陰で康光と女房はゆっくりと夫婦水入らずの夜を過ごすことができたのだ。