紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月
これはもう完全に嫌われているなと、流石の帰蝶も悟らざるを得ない。噂によれば、信長は吉乃(きつの)という家臣の娘に夢中なのだという。吉乃は出戻りだが、父道三の言う「信長好みの女」で、儚げな花のような風情の可憐な娘だそうだ。
つい数日ほども前のことになる。
帰蝶が城の廊下を歩いていると、年若い侍女たちがひそひそと噂話をしていた。
―お館様は真に吉乃様に夢中でいらっしゃるわねえ。そう申せば、吉乃様にはご懐妊の兆候がおありになったとか。
―まぁ、それはおめでたいこと。さりながら、生駒のお方様(吉乃は生駒氏の娘であったことから、このように呼ばれた)にお子様がおできになると、奥方様のお立場は益々苦しいものになられますね。それでなくとも、お館様は奥方様を近付けようともなさらないのだもの。
つい数日ほども前のことになる。
帰蝶が城の廊下を歩いていると、年若い侍女たちがひそひそと噂話をしていた。
―お館様は真に吉乃様に夢中でいらっしゃるわねえ。そう申せば、吉乃様にはご懐妊の兆候がおありになったとか。
―まぁ、それはおめでたいこと。さりながら、生駒のお方様(吉乃は生駒氏の娘であったことから、このように呼ばれた)にお子様がおできになると、奥方様のお立場は益々苦しいものになられますね。それでなくとも、お館様は奥方様を近付けようともなさらないのだもの。