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紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

 兼家が滑稽なほど狼狽えている。でも、その慌てぶりは兼家が美耶子を心から案じてのものであることを、美耶子は誰よりもよく知っていた。
 もし、これが夢ならば醒めないで欲しい。美耶子はそう思った。眼の前にいる兼家が現(うつつ)の中の人であることを確かめようとして、恐る恐る手を伸ばす。
 いや、たとえ現ではなく夢なのだとしても構いはしない。もう二度と離れたくないから、失いたくないから。
 美耶子は泣きながら兼家の胸に飛び込んだ。伸ばした指先が温かな頬に触れた瞬間、美耶子の手は兼家に掴まれていた。躊躇いがちな手が美耶子の背に回され、やがて、きつく強く美耶子は抱きしめられた。

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