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紅蓮の月~ゆめや~

第10章 第三話 【流星】 二

「―やこ、美耶子」
 遠くから自分を呼ぶ声が聞こえているように思い、うっすらと眼を開いた。水の中からぽっかり浮かび上がるように、徐々に意識が覚醒してゆく。
 眼を開いた時、そこに思いもかけないひとの顔を認めて、美耶子の鼓動が速くなった。
―もしかして、これは夢?
 美耶子の眼前に今、恋しい男がいた。逢いたくて逢いたくて、たまらなかった男がいる。
 気を利かせた乳母が美耶子に無断で兼家に知らせを出したとは思いだにしない。
 美耶子の眼に熱いものが滲んだ。
「ああ、こんなに痩せてしまって。駄目ではないか、乳母や女房たちは何をしておるのだ。美耶子が弱ってゆくのを手をこまねいて見ておるだけなのか? 大切な身体に万が一のことがあったら何とするのだ」

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