紅蓮の月~ゆめや~
第2章 紅蓮の月
―そうですねえ。吉乃様付きの侍女殿から聞いた話では、「マムシの娘は所詮マムシ姫よ」などと吉乃様に笑って話してらっしゃるとか。
帰蝶が物影にいるなぞと思いも及ばない様子で、二人の侍女はひそひそと囁き交わしていた。別に立ち聞きするつもりはなかったのだが、他ならぬ良人信長についての話だったゆえ、つい聞き入ってしまった。
侍女たちの話にも出てきたように、信長はひそかに「織田の大うつけ」と呼ばれている。帰蝶が輿入れする前、父道三も婿の信長を「あのうつけ」とうつけ呼ばわりした。「うつけ」というのは馬鹿とか、阿呆という意味である。
では何故、信長がうつけと呼ばれているかといえば、そのおよそ常識を逸脱した奇行、言動によるところが大きい。亡き父織田信秀の葬儀の折に、礼儀もわきまえぬ粗野ななりをして現れ、位牌に香をぶつけたのを初めとして、思わず眉をひそめたくなるような非常識な振る舞いが目立った。
帰蝶が物影にいるなぞと思いも及ばない様子で、二人の侍女はひそひそと囁き交わしていた。別に立ち聞きするつもりはなかったのだが、他ならぬ良人信長についての話だったゆえ、つい聞き入ってしまった。
侍女たちの話にも出てきたように、信長はひそかに「織田の大うつけ」と呼ばれている。帰蝶が輿入れする前、父道三も婿の信長を「あのうつけ」とうつけ呼ばわりした。「うつけ」というのは馬鹿とか、阿呆という意味である。
では何故、信長がうつけと呼ばれているかといえば、そのおよそ常識を逸脱した奇行、言動によるところが大きい。亡き父織田信秀の葬儀の折に、礼儀もわきまえぬ粗野ななりをして現れ、位牌に香をぶつけたのを初めとして、思わず眉をひそめたくなるような非常識な振る舞いが目立った。