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紅蓮の月~ゆめや~

第13章 最終話 【薄花桜】 一

 治助が倒れた頃から、小文は急速にキリシタンの教えに傾倒していった。良人の余命が幾ばくもないことを知った数日後、偶然歩いていた時、町中にある天主堂に入ったのがきっかけだった。あの時、自分は確かに神に、でうす様に導かれていたのだと、小文は思う。これまでさして信心深くもなかった自分がまるで吸い寄せられるようにして、たまたま眼に入った天主堂に入ったのだ。
 人気もない閑静な御堂の中には、正面にただ大きな十字架とでうす様の像があるだけだった。それでも、小文は雷に打たれたような衝撃を受けた。その場の澄んだ静謐な空気に癒されるような気がした。それから天主堂に通い、ミサにも行くようになった。ミサの後の伴天連(ばてれん)(宣教師)の説教には殊に心動かされた。

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