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紅蓮の月~ゆめや~

第13章 最終話 【薄花桜】 一

 新しい客が来た様子に、慌てて想いを振り払う。見れば、店先に若い娘が一人立っている。小文と同じ歳くらいだろうか。
 小文はおずおずと店の中を覗く娘に近寄り、明るい声で言った。
「いらっしゃいませ。何かご用でございますか」
 だが、いかにも金持ちのお嬢様らしい派手やかな着物の娘は、小文と眼が合うと逃げるように駆けていった。小文は軽い溜め息をつく。その拍子になにげなく胸許を押さえた手がロザリオに触れた。華奢な首筋にかけられているのは銀のクルスである。手にとって陽にかざすと、小さな十字架はキラキラと光った。

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