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紅蓮の月~ゆめや~

第2章 紅蓮の月

「そなたの舞はなかなかだと聞いている。ひとさし舞うてはくれぬか」
 あまりにも唐突な命であった。しかし、帰蝶はこれにも微笑んで頷いた。信長は更に思いがけないことを言った。
「伴奏は儂(わし)の鼓だ。不足はないな?」
 訊ねられるように言われたけれど、半ば強制的なものであることは判っている。
 鼓を持った信長が端然と座り、帰蝶はその音に合わせて舞った。
 澄んだ音色が部屋中に響き渡る。帰蝶の舞はまるで春風と戯れる花びらのようだった。鼓を打ちながら、信長は帰蝶をずっと眼で追い続けている。
 帰蝶はお気に入りの小袖を着ていた。白と赤のふた色に染め分け、裾模様の赤地の部分に金銀で扇面を大胆に描いている。十六歳の少女にしてはやや大柄な帰蝶には華やかな色柄がよく似合っていた。

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