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紅蓮の月~ゆめや~

第2章 紅蓮の月

 ひとしきり舞った後、帰蝶は信長の前に手をつかえて座り、頭を下げた。
「お粗末にございました」
「―なかなか見事であった」
 信長にしては珍しく直截な誉め言葉である。
「帰蝶」
 唐突に名を呼ばれ、帰蝶は顔を上げた。刹那、いきなり顎に手をかけて仰のかされた。間近に信長の顔が迫っている。侍女たちに言われるまでもなく、細面の端整な美男の信長である。
 今夜の信長は髪も茶筅髷ではなく、きちんと月代を剃って結い上げており、着物も着流しではなく袴をつけている。いつもの奇抜ないでたちではない信長を見るのは初めてであった。まるで別人かと思うほどの変わり様だ。

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