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紅蓮の月~ゆめや~

第2章 紅蓮の月

「美しいな」
 帰蝶の耳許で信長が囁いた。その声が熱を帯びたように少し掠れていた。
「マムシの姫を食せば、どのような味がするのであろうか」
 信長の顔がいっそう近づく。
―何という威圧感。
 信長という男はやはりただ者ではないと思った。全身から何かしらの力―近づく者を圧倒するような存在感を発散させている。
 マムシと畏怖される父道三でさえ、これほどの存在感で対する者を威圧することはない。帰蝶は一瞬、恐怖に駆られたが、身体の震えを信長に気づかれまいと懸命に耐えた。

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